頬が熱く、顔が赤く染まる。
その原因を俺は知っている。

絶対にあいつしかいない―――――


「んぎぎ……もうちょい………」

ここ、影光(えいこう)高校で最も静かだと言われている図書室に葉月光(はづきこう)はいた。
光はちょっとした用事で、ある本を探していたのだが、その本があった場所は一番高い棚にあったため、光は脚立に乗って本を取ろうとしていた。
が、影光高校は無駄にお金がかかっているというか、とにかく校舎が広いのだ。
つまり、その中の一つである図書室も広い。
そして、床から天井までが高い。
そのせいで、本棚は軽く5mは越している。
―――
普通に取れるかっ!!
内心、そう愚痴りながらも光は手を目的の本まで伸ばしていた。
幸い、本棚が高いために脚立もそれなりに高いのでバランスにさえ気をつけてれば問題はない。
ほんの少し揺れる脚立を心配しながらも、光はようやく目的の本を掴んだ。
―――
よし。
そう、光が安心した時だった。
「葉月」
「うわっ!?」
突然話しかけられたので、光は驚いてバランスを崩してしまった。
ぐらりと視界が反転し、何が起こったかを瞬時に悟る。
―――
落ちるっ!
とっさに光は目を瞑った。
………。
………………。
「あ、あれ……?」
意外に落ちた衝撃が少なく、体のどこにも痛みはなかった。
何が起こったのかと思い、光が目を開けてみると、そこには眼鏡をかけた少年の顔があった。
「蒼……」
光がそう呟くと、中原蒼(なかはらそう)はにっこりと意地悪く笑ってみせた。
「怪我がなくて何よりです。……お姫さま」
「なっ………!?」
そこでようやく光はなぜ自分の目の前に蒼がいるのかを理解した。
ついでに、床に落ちた感覚がなかったことも。
落ちてきた光を下にいた蒼がキャッチしたのだ。
そして今、光は蒼によってお姫さま抱っこされていた。
全てを理解したと同時に、光の顔は一気に赤くなりだした。
「蒼っ!降ろして!!」
ジタバタ暴れる光を見兼ねて、蒼は光の言った通りに降ろしてやった。
降ろされた光はきっ、と蒼を睨みつけた。
「何でここに蒼がいるんだよっ!?」
そう尋ねたものの、しかし蒼は口元に人差し指を立てた。
いわゆる、静かにの意。
「理由は外で話すよ。……まずはそれを借りてきたら?」
そう言って蒼が指を指したのは光が借りようと思っていた本だった。
光はしばらくの間、蒼に何かを言いたそうな目を向けていたが、蒼の楽しんでいる顔を見て諦めたのだった。

「さぁっ!!どどーんと全部喋っちゃって!」
光が本を借りた後、二人は図書室を後にして人が少ないベンチコーナーへ移動した。
詳しく説明するならば、影光高校は今冬休みに入っている。そのため、学校に来ている人が少ないので、普段混んでいるベンチコーナーは今人が少ないのだ。
ベンチといっても、公園などにあるようなベンチとは違う。
校舎の中にある、人が座れるような場所のことをとりあえずベンチコーナーと生徒は呼んでいるのだ。
そこに二人が落ち着くと、早速光が先程の言葉を言ったのだった。
蒼は楽しそうに笑ってそれに答えた。
「全部ってことは、俺の3サイズも?」
「いるかっ!!俺が聞きたいのは何で蒼が図書室にいるかってことだよ!!」
「……俺だって図書室ぐらい利用するさ。俺がめんどうなことをしないっていうの、葉月だって知ってるだろ?」
そう言われて、光は何も蒼に言い返すことができなかった。
この男は自他共に認めるほどのめんどくさがりやなのだ。
光が釈然としないままでいると、蒼が「だから……」と言葉を続けた。
「ついでに、俺が葉月にあることを伝えに来ることになったんだよ。平原(ひらはら)から葉月が図書室にいることを聞いてたし」
「……あること………?」
「そ」
蒼は軽く頷くと、言葉を続けた。
(じん)が今日クリスマスパーティをやろうってさ」
「今日?急だね」
「朝、神が急に言いだしたんだよ」
「……神らしいね」
光は思わず苦笑してしまう。
そんな光を蒼は先程とは違う、柔らかい顔で見つめていた。
それに気がついた光は顔を真っ赤にして叫んだ。
「な、何っ!?」
そう言われて。
蒼はにやりと意地悪な笑みを浮かべた。
「いや……見てて飽きないなぁ、と思ってさ」
「っ………!?」
蒼がどういう意味でそんなことを言ったのか分からないが、光の顔は完全に真っ赤に染まり、頭がぼーっとしてきた。
そんな光の異常に気づいたのか、蒼は不思議そうな顔で光を見ていた。
「どうかしたか?葉月………」
「え、あー……頭が少しぼーっとする…みたい」
光がはっきりしない感じでそう言うと、蒼は急に光の頭を自身の肩に引き寄せた。
それに光は驚く。
「えっ?」
自分の息遣いが蒼に聞こえそうなほど近くて、余計に光の顔は赤くなり、頭はぼーっとしてきた。
「しばらく寝とけば?そうすれば、頭も治るんじゃない?」
光はその言葉に何かを言おうとしたが、言うのがだるくて心の中で言うことにした。

―――
お前のせいだ、お前のっ!!


終わり


あとがき
×4、つまり蒼光(そうこう)でお送りしました。
クリスマスネタがあまりありませんでしたが、フリー配布なんで気に入った方はもらってってくださいね。
ちなみに、2×4は書くのが久々だったんで、かなりノリノリで書きましたが何か?

 

 

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