ブルー達がマジックキングダムに着いた時にはもうすでに廃墟と化していた。
あのきれいな建物も景色も全てが壊れていた。
『……これは一体………』
ブルーだけでなく、ルージュもその光景に驚いた。
ブルーは静かに目を閉じる。
「ブルー………?」
アニーがブルーの名前を呼ぶ。が、ブルーは何も反応しなかった。
むしろ、街中にいた敵が一行に気が付いた。
ブルー以外の人はみんな戦闘態勢になった。
ある者は剣や刀で敵を切り裂き、ある者は銃で敵を撃ち抜いていく。他にも体術や術を使って敵を倒していく。
元々たくさんいたわけではないが、数が一気に減っていった。
だが、敵も馬鹿ではない。戦ってなく、隙だらけのブルーを見つけると一斉に襲いかかった。
「………しまったっ!!」
仲間達はそれに気付いたが、今この攻撃を緩めれば逆に自分達が危険になる。
だから、仲間達は急いで敵を倒していった。
そうして、ブルーに攻撃をしようとしている敵を倒そうとする。
しかし、どう考えても敵がブルーに攻撃する方が早い。
みんなが間に合わないと諦めかけたその瞬間―――――
「生麦生米生卵ぉっ!!」
突然ブルーが、いやルージュが早口言葉を叫んだ。
仲間達はブルーがルージュに替わったことや早口言葉をいきなり叫びだしたことに驚いた。
ルージュはそんな仲間達を気にせずに術を発動させる。
「大火事になれっ!フラッシュファイア!!」
光の炎がルージュを中心にして広がっていく。敵はその炎に焼かれていく。
仲間達は術が及ばない範囲まで急いで逃げた。
光の炎は壊れている建物も燃やしていった。
ルージュはそれを大満足気に眺めていた。
「本当に大火事になりそうだね〜。キングダム、ルージュの魔術で滅びる、ってか?」
そんなルージュの頭をアセルスが後ろから叩いた。
「これ以上被害を増やしてどうするんだよっ!」
その台詞にルージュは怒ったような顔をした。
「一人だったものを二つに分けて、僕達双子を人為的に作ったキングダムを許せっていうのか?……しかも、二つに分かれたのをまた一つに戻そうとしたキングダムをっ!!」
「………ルージュ」
今までおちゃらけたルージュしか見たことがないアセルスは何と言えばいいのか分からず、ルージュを見ていた。
ルージュは続ける。悲しそうな顔をして。
「………どうせ、一つになるんだったらブルーの記憶と資質だけを吸収するようにしてもらいたかった。ブルー自体はいらない、つか邪魔なだけなのに〜。キングダムのバカヤロー!!」
「馬鹿はアンタだっ!!」
アセルスは思いっきり(気持ちが良いくらいに豪快に)ルージュを後ろから殴り飛ばした。
「ちょっとでも感動した私が馬鹿だったわ」
「なんだ、アセルスも結局は馬鹿なんじゃん」
ルージュのその言葉にキレたアセルスは幻魔を使おうとしたが、メサルティムによって止められた。
「アセルス様、今は火事をどうにかするべきだと………」
メサルティムのその言葉にアセルスは頷く。
「メサルティム、火を消して」
「御意」
メサルティムは深々と御辞儀をすると、手を火事が起きている方に向けた。
「メイルシュトローム」
大津波が発生し、火を飲み込んでいった。
大津波がなくなると、火事が起きていたはずの壊れた建物も消え去っていた。
多分、どこかに流されていってしまったのだろう。
「しっかし、なんでまたルージュに戻ったんだ?」
「戻るも何も、この体は僕の物だよ」
リュートが首を振って言った。
「いや、それは分かってるんだけどな。そうじゃなくて、何であんな危険な時に戻ったのかってこと」
一歩間違えれば死んでたぞ、とリュートは付け足した。
だが、ルージュはきょとんとした顔をしていた。
「僕は敵が現われる前にブルーとチェンジしたけど」
「じゃあ、何でぼーっとしてたんだ?」
ゲンが問うた。
「あぁ、それはブルーと意識の中で喋ってたからだよ。その時は体に何も宿ってないから無防備になるんだ」
交替した後なら尚更無防備になる、ルージュはそう言った。
「アンタは何がきっかけで出てこようとしたの?体を奪い返すため?」
アニーが更にルージュに質問をする。
「それもあるけどね、キングダムの惨状を見て驚いたんだよ。………僕が悲劇の主人公になる為に滅んだのかって」
ルージュはなぜか力説し始めた。
「そんなキングダムの為に僕がブルーと替わって目立たなきゃ、そう思ったんだ」
仲間達はルージュの「主人公」というポジションに対する執着心は凄いと、半ば呆れながら感心していた。
一方、ルージュは何かを閃いたらしい。技を閃いた時のようにルージュの頭上に豆電球のアイコンが表示された。
くるり、とルージュはメサルティムを振り返った。
「メサルティム、雨を降らせてくれないかな?」
そのルージュの言葉にメサルティムは嬉しそうに笑った。
「任せてください、先輩っ!!」
「先輩!?てか、いつまでメサルティムはルージュの下なの?」
アセルスはメサルティムに、もちろんルージュにも突っ込んだ。
が、二人とも聞いてなどいなかった。
「生命の雨」
ざぁーっ、と雨が降ってきた。壊れた今のマジックキングダムと雨が何とも言えないほど悲愴を漂わせた。
間違いなく、悲劇の主人公に相応しい情景だった。
だが、そんな中でも敵が次から次へとどこからか湧いてきた。
「ちっ。いい場面を邪魔しに来たなっ!!」
ルージュはあからさまに嫌そうな顔をする。他の仲間達も敵を倒していく。
だが、どんなに倒していっても後からどんどん同じような敵が現われてきた。
「ん?同じような敵?」
リュートの頭にクエスチョンが。
他の人達もそのことに気がつき始めていた。
同じような敵。もしかしたら、違うのかもしれない。
だが、倒していった敵が復活するのを見て、みんなはそれが自分達が倒したはずの敵だと気付いた。
「どういうことだ?」
ゲンがなかなか倒れない、否倒せない敵を見て苛立ち始めていた。
「どうやら、新種のモンスターというわけでもなさそうなのだがね」
ヌサカーンが残念そうに答えている。まぁ、彼のことだから新種のモンスターを見つけたらきっと解剖するのだろう。
敵が倒れないので、こちらも無事ではなくなる。
疲れきったところを敵は攻撃をしてきた。
「うっ………」
アセルスはそれを避けたけれど腕に傷を負った。かろうじて軽傷で済んだものの、次もそれで済むとは思えない。
傷の痛みを頭から追い払い、敵を薙ぎ払った。
意識しないことで、自分の傷が痛まない感じがした。
「痛まない?」
アセルスはふと疑問に思った。
そして、傷ついた腕を見た。
「っ………!?」
なんと、腕の傷がキレイさっぱりと治っていたのだ。
そのことでアセルスは敵が倒れない理由が分かった。
「メサルティム、生命の雨を止めてっ!!」
アセルスはメサルティムに大声でそう言った。
つまり、このフィールドに降っている生命の雨が敵が倒れない原因だったのだ。
生命の雨はHPを回復する技。それがこのフィールドに降り続けている間は味方はもちろんのこと、敵も回復し続ける。
そして、長期戦になれば確実に疲れやすいこちらが不利だ。
「ダメだよ、この雨は演出なんだから〜」
ルージュが子供のようにわがままを言いだした。
しかし、アセルスはルージュの言葉など無視し、メサルティムに命令した。
「ルージュは無視していいから早く止めるんだ!!」
メサルティムはルージュの方をちら、と見た。そして、申し訳なさそうにして言った。
「先輩、ごめんなさいっ!!」
(先輩は余計だぁぁぁっ!!)
アセルスは心の中で突っ込んだ。
メサルティムが天に向かって両手を上げると雨は止んだ。
これでようやく倒せるはずだ。
みんなは活気を取り戻し(一人除く)、敵を次々と倒していった。
ようやく、残り少なくなった敵をまとめて倒そうとした時だった。
後ろの方、ルージュの方から仲間達に対して殺気が向けられていることに気がついた。
「よくもみんなで僕の悲劇の主人公プランを潰してくれたね」
ルージュからは殺気プラスブラックオーラが発せられていた。
仲間達の脳裏に嫌な考えが横切った。
「リバースグラビティ!!」
ルージュがそう叫ぶと同時に敵が全て逆さになって宙に浮いた。
その光景にルージュはにっこりと笑った。
「そのまま地面の下に行くぐらいに落っちろぉぉぉっ!!」
敵はルージュの言葉の通り(さすがに地面の下には行かなかったが)に思いっきり落ちた。
もちろん、敵は助かってなどいなかった。
ルージュはダークな笑みを浮かべながら、仲間達を振り返った。
「君達はどんな術であーいうのになりたい?」
ルージュは笑いながら、無残な姿になった敵(と言えるのか?)を指して行った。
「超風?それとも、僕の得意なヴァーミリオンサンズがいい?」
そのルージュの問い掛けに仲間達は必死で頭を振った。
こういう時にブルーが出てくればなぁ、と淡い期待を持つ人もいた。
ゴゴゴゴゴ
なんだか、下の方からジョジ●のバックの効果音のようなものが聞こえてきた。
さすがに下からスタ●ドが出てくるわけではなかったが、嫌な予感がする音だった。
音が大きくなるにつれて、地面も揺れだした。
「なっ………今にも壊れそうだとは思ってたけど、まさか本当に壊れるってことはないよね?」
アニーが誰にともなくそんなことを言った。
それにルージュが冷静な声で状況を分析した。
「多分だけど、元々脆かった地盤がさっきのリバースグラビティで更に脆くなったのかもしれない」
そんな重大なことを何でもないかのように言うルージュ。他の仲間達(ヌサカーンだけは不気味に笑っていた)の顔色がさっと青ざめた。
恐る恐るリュートはルージュに尋ねた。
「つまり?」
ルージュはにこやかに言ってのけた。

「落ちるってことだよ♪」

場が一瞬静まり返った。
そして、ようやくルージュの言葉の意味を飲み込めた仲間達は急に怒りだした。
『楽しそうに言うことじゃねぇっ!!』
「大声出したらもっと早くに地面が崩れちゃうよ?」
そのルージュの言葉にみんなはぴたりと喋るのを止めた。
――――が、実際は時既に遅し。
気付いたときにはもう地面は割れていた。
『うわぁぁぁぁっ』
ルージュ様御一行、地下へご案内(笑)。

地下へ落ちたようだったが、どうやらみんかケガ一つ負わなかったみたいだった。
ルージュは無惨に壊れているのを改めて見ていた。
すると、目の前に今にも死にそうな人が倒れていた。
「あれを見て!!」
どうやら、彼に気付いたらしいアニーが彼を指差していた。
ルージュは彼に近寄り、マジックキングダムに何が起きたのかを尋ねることにした。
「一体何があったんだ!?」
「うっ………」
ルージュの問い掛けに男は反応した。
「……封印が解けて、モンスター達が溢れ―――」
どごっ
なんだか男の話し方がまだるっこしかったので、イライラしてきたルージュは男の腹に思いっきりパンチを喰らわした。
「ぐふっ………」
男はその腹パンによって息絶えた。
「しっかりしろ!おいっ!!」
ルージュはわざわざ悲劇の主人公を演じていた。
(自分で止めを刺したくせに)
仲間達は呆れた顔をしながら、心の中で突っ込んでいた。

大分下に下りていくと、突然ルージュの懐が光りだした。
仲間達はもちろんのこと、ルージュでさえも何が起こったのか分からなかった。
とりあえず懐に手を突っ込み、光っているであろう物を取り出した。
それは先程拾った“三女神の腕輪”だった。
『それを使ってみろ』
唐突にブルーがルージュに命令した。ルージュはブルーに命令されたので不機嫌そうに頬を膨らませた。
『僕に命令すんのやめてくれない?僕は僕のやりたいようにやるんだから』
『いいから使え。何かが起きるかもしれないんだぞ』
『そんなもん知るかー!!』
二人は意識の中で喧嘩し出した。
傍から見れば、ただ腕輪を持ったままぼーっとして立っているかのように見えていた。
『もういい。やらないなら俺がおまえの体を乗っ取ってやるまでだ』
『なんだって!?前から言ってるけど、この体は僕の物だ〜っ!!』
『二人とも、喧嘩はお止めなさい』
謎の女性の声が二人の言葉を遮った。
さすがのルージュとブルーでもその声を無視することはできなかった。
なぜなら、他人が入ることのできないルージュの意識に何者かが入ってきたのだから。
『誰だっ!?』
ブルーが謎の女性を問い詰めた。
彼女はそれに答えた。
『私はあなた達がいる目の前にある女神像の姿をしている女神です。双子同士で争うのはお止めなさい』
その女神の言葉にブルーとルージュは怒りに肩を震わせた。
『双子同士で争うのは止めろ?それがキングダムが信仰している女神の言う台詞か?』
『争うなって言うならブルーを僕の体から消滅させてよ!!このっ―――』
女神に対する最後の言葉は二人同時だった。

『偽りの女神めっ!!』

意識を現実に戻したルージュは、手に持っていた“三女神の腕輪”を目の前にある女神像の頭に思いっきり力を込めて当てた。
どかん、と爆発するような音がすると煙が女神像の頭を覆い隠した。
煙が消えると、もはや女神の頭などどこにもなかった。
ルージュは女神像の頭だった部分を見て言った。
「あそこから中に入れそうだ」
こうして、仲間達と共に女神像の頭だった所から中へと入った。

中に入ってみれば左右に男女がいて、上の方にはたくさんの新生児が眠っていた。
「君は最後に旅立ったブルーかルージュかい?」
その質問にルージュはきっぱりと答えた。
「僕はルージュです。ブルーじゃありません」
「そ、そうか………」
どうやら、男が考えていた言葉ではなかったようだ。
なんだか、やりにくそうに見えた。
「と、ところでここを見て何か言うことはないのかい?」
何か言われることを期待してるかのようだ。ルージュはきょとんと男を見て言った。
「特にないですけど」
その言葉に男は崩れ落ちた。
しばらくして、気を取り直した男は女に合図を送った。
女は頷くと、一つの冊子のようなものをルージュに渡した。
ルージュは受け取ると、パラパラと中身を見だした。そして、見終わるとその冊子を女に返した。
「えと………どうして一つだった僕達を二つに分けた!?人為的に!!」
(台本だったのかぁぁっ!!)
仲間達は心の中で突っ込んだ。
男と女はルージュの台詞に満足そうに頷いていた。そして、ノリノリで自分達も台詞を喋った。
「仕方がなかったのよ。地獄のモンスター達からマジックキングダムを、ひいてはリージョン界を守るためには!!」
「そうだ。その為には最強の魔術士が必要だったのだ」
男と女は正論を口にする。
ルージュはその言葉に怒った。
「そんなことの為に利用したのか!?まだ何も知らなかった僕を!!」
きっ、とルージュは彼らを睨み付けた。

「そんな大人、修正してやるっ!!」
ヴァーミリオンサンズ発動。
(これが若さか………)

ルージュの放った術によって男と女は倒れた。ついでに今さっき侵入してきたモンスター達もルージュの術によって一掃されていた。
女が最後の力を振り絞ってルージュに喋りかけた。
「ルージュ、この子達だけでも助けて。………地獄の力を弱め、封印すれば―――」
「おい、しっかりしろっ!おい!!」
ルージュがどんなに揺さ振っても女は目を開けなかった。
これをきっかけにルージュは地獄を封印することを決意したのだった。
ちなみに、ルージュ本人が男と女に術を放ったことや、先程女がルージュに渡した冊子の表紙に「悲劇の主人公、ルージュのシナリオ」と書かれていたことについては誰も何も突っ込まなかった………。

「ここから地獄に行けるの?」
邪悪な、それでいて澄み切った気配のする空間でルージュは比較的軽傷らしい人を見つけてそう尋ねた。
「………もしや、君はルージュか?」
男はあまり自信がなさそうにルージュに問うた。
それにルージュは頷く。
「うん、そうだよ」
ルージュはにっこりと頷いた。
男はその言葉を聞くとため息を吐いた。
「そうか………」
男の顔は明らかにブルーの方が良かった、というような顔をしていた。
だが、すぐに普通の顔に戻した。
「悲劇の主人公ならば期待も持てる」
ルージュは“悲劇の主人公”という言葉に反応し、にやにやて嬉しそうに笑っていた。
一方、男の方は嫌々喋っていた。
「地獄へ行くと、封印しない限り戻ることは出来ない。地獄でゲートを使うと混沌の間に飛ばされるから、それでも行くのならリージョン移動のアイテムは私が預かろう」
ゲートは術を覚えただけでは使えない。それ専用のアイテムも必要なのだ。
それを預けるということは、すなわちゲートを使えなくするということだ。
ルージュはさすがに混沌の間に飛ばされたくはなかったので、素直に男にアイテムを渡した。
「さぁ、行くぞ〜」
なぜか知らないが、ルージュはやる気満々だった。
リュートが男の横を通る時にあることを尋ねた。
「なんで、わざわざルージュのことを悲劇の主人公って言うんだ〜?」
他の仲間達も頷く。
男は軽くため息を吐くと、疲れた口調で答えた。
「ルージュにマジックキングダムを救わせるにはあーいうことを言ってやる気を起こさせるのが一番だろう?」
だから嫌々言っていたのだろうか。さすがというか、マジックキングダムの人達はルージュの扱いに慣れているようだ。
素直に仲間達は感心した。
「そうだ。これもマジックキングダムの為なんだ………」
なんだか、屈辱を耐えるかのようにぶつぶつと呟く男を見て、仲間達は心の底から同情したのだった………。

地獄とは言っても、見た感じはどちらかというと天国のようだった。
マジックキングダムで入る前に感じた気はこの外見のせいなのだろうか。
「珍しいモンスターばかりだ。………くっくっくっ。連れ帰って解剖してみたい」
ヌサカーンからは間違いなく、いろんな意味で恐ろしい気が漂っている。
だが、ヌサカーンの言う通り、ここにいるモンスターは見たことが無いようなモンスターばかりだった。
敵でさえ、天使のようなのがいるので本当にここが地獄だと忘れてしまいそうだった。
しばらく歩いていくと、天使のようなモンスターが巨大な卵のような物の周りを飛んでいた。
その卵のような物からは言葉に表せない程の邪悪な気配を感じた。
一行はその前で止まった。
すると、その気配を感じたかのように突然卵が割れだした。
『っ………!?』
中身が出てくると同時に凄まじい重圧がルージュ達一行にのしかかった。
目を開けられない程凄かったが、みんな無理矢理でも目を開いていた。
そんなみんなの前に姿を現したのはいかにもラスボスというような厳い姿をした魔王(みたいなもの)だった。
それは、地獄の君主は唐突に喋りだした。
「こんな所に来たってことは迷子ですか?」
(殺傷率が高い)スマイル。
「ぐはっ………」
「なっ………!?あのルージュがダメージを受けてる!?」
「やばい。あのスマイルは危険だっ!!」
地獄の君主のスマイルによってルージュは死にかけ、更にそれによって仲間達は混乱に陥っていた。
ただ一人ヌサカーンだけはその光景を楽しそうに眺めていた。
「ヌサカーン、不気味に笑ってないでルージュを助けて」
アセルスがヌサカーンにお願いをする。
ヌサカーンは返事の代わりに笑うと、ルージュの傍に寄り耳元でぼそり。
「……君がここで死ぬんだったら、体を解剖してもいいよね?」
その言葉(仲間達には聞こえていない)にルージュは反応し、リヴァイヴァ並に復活した。
ルージュはヌサカーンから逃げるようにして距離を取り、地獄の君主の方に向き直った。
「危うく死にかけたが、これでようやくキサマがキングダムを破壊し、リージョン界を脅かしていることが分かった」
ずびしっ、と人差し指を人ではない地獄の君主に向けた。
しかし、地獄の君主は冷静だった。
「でも、私が生まれたのはつい先程だ。それをおまえ達も見ていただろう?」
「確かにそうだ。……だがな、キサマの部下達がやっのは明白だっ!!」
ルージュのその言葉にようやく地獄の君主は動揺を顕にした。
それに反応するかのように周りの景色が地獄の風景から、サスペンスなどでよく犯人が最後に自供するシーンでお馴染みの崖っ淵に変わっていた。
「……なんで、そんな馬鹿なことを考えたんですか?」
ルージュはどうやらノリノリでサスペンスの主人公的なキャラを演じている。
もちろん、地獄の君主も犯人になりきっている。
「仕方がなかったのよっ!!私がこんな姿だから、昔から男は誰も私に見向きなんてしなかった!!」
(メスだったのかぁぁぁぁっ!)
二人(?)に置いてかれている仲間達が地獄の君主を見て驚いていた。
が、ルージュはそんなことをちっとも気にしている様子などなかった。
「特にマジックキングダムの男はひどかった。だから、最初にマジックキングダムを滅ぼすように部下達に言ったの。……そして、ゆくゆくはリージョン界全てを滅ぼすように」
地獄の君主は突然泣きだした。
ルージュは地獄の君主の自供を聞くと、喋りだした。
「だからって、みんながみんなあなたを嫌いなわけじゃない。少なくとも僕は有りだと思う」
地獄の君主が顔を上げる。
ルージュが微笑むと、地獄の君主は謝りだした。
「ごめんなさい、ごめん……なさい」
「大丈夫。今からなら許されるよ。だから、IRPOに自首しよう」
すっ、とルージュは地獄の君主に手を差し出した。
「罪を償ったら、きっと素敵な人と出会えるよ。……それにここだけの話、IRPOには無類の女好きがいるから彼がきっと君を幸せにしてくれるよ」
「本当………ですか?」
地獄の君主の問いに頷く。地獄の君主はルージュの手を握ると、お礼を言った。
「ありがとうございます」
そんな彼女を見てルージュはにっこりと黒い笑みを浮かべた。
「いいんだよ。……もし、その彼と結婚することになったら僕を呼んでね」
「はい、分かりましたっ!!」

こうして、地獄は無事に封印された。地獄の君主はルージュが責任持ってIRPOに届けた。
全てが終わったルージュはブルーの意識だけを消すためにマジックキングダムを直すことに決めたのだった。
『とゆーわけで、ブルーは消える覚悟をしといてね』
『二つにまた戻せばいいだろうがっ!!』
『それだと僕は最強の魔術士じゃなくなっちゃうもん』
『知るかっ!!』

ブルーが自分の体を取り戻し、ルージュの呪縛から逃れるのはいつになるやら………………。

それゆけっ!!22歳最強魔術士!
終わり。


おまけ

一方、IRPOはというと………

(少しは真面目だと感心したのに!!)
ヒューズはヒューマンではないのを目の前にして、ここにはいない腹黒い魔術士に心の中で悪態を吐いた。
「あ、あの。不束者ですが、よろしくお願いします。ヒューズさん」
(どないしろっつーんだ、コレぇぇぇっ!!)

ヒューズがこの後どうなったのかは不明。


ちゃっちゃらちゃーら、ちゃっちゃん。

 

 

 

 

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