私が見たのは机に突っ伏し、一枚のカードを持っているレンだった。
レンは私がいることにも気付かずに突っ伏したままだった。
「―――レン?」
私はたまらずに動かないレンに話しかけた。すると、僅かだがぴくりと動いた。
その反応を見た私は急いでレンの傍に駆け寄った。
「レンっ!!」
「……エミリア、か?」
「そう、私よ」
レンの問い掛けに頷く私。レンは安心したように淡く微笑んだ。
「エミリア、君に頼みたいことがあるんだ」
「何?私で良ければ何でもやるわ」
「……すまない」
レンは私に謝ると手に持っていたカードを渡した。
「………これは?」
そのカードはトランプのジョーカーだった。これが一体どうしたのだろうかと考える。
すると、レンはそれについて話し始めた。
「今日、俺はババ抜きをやったんだ。だけど、このジョーカーが残って負けてしまったんだ」
レンは負けの原因である、このカードをエミリアに渡した。ということはつまり………。


「俺の仇を取ってくれ!エミリア!!」


レンから詳しく話を聞いてみると、このジョーカーに似ている仮面をつけたやつと勝負したところ、負けてしまったようだ。
ちなみにその仮面野郎(以後、ジョーカー)はババ抜きの優勝者がもらえると言われている“キューブ”というものが欲しいらしい。
だから、ババ抜き大会に参加すればレンの仇を取れる。
レンはIRPOの隊員なのでそんなジョーカーを逮捕しようとしたところ、勝負を挑まれて負けてしまったのだろう。
そういうわけで、私はクーロン地区のグラディウスという組織に入り、腕を磨いていった。
まず最初はシンロウの仮面武闘会にて実力を身につけ、次にバカラで運を身につけた。
そして、大会当日。1日目と2日目はラムダ基地にて行われた。
私は全てに勝ち、明日はジョーカーとの決勝戦だった。
決勝戦の場所はモンドから聞いた。モンドいわく、ヨークランドの山奥らしい。
全てを賭け、私はレンの仇を取るために、翌日グラディウスのメンバーと共に決勝戦の場所へと向かったのだった………。


「ジョーカー、あなたを倒してレンの仇を取るわ」
お互い揃ったペアのカードを捨てていく。エミリアの手札にはババが無かったのでジョーカーが持っているらしい。
「私はあなたを絶対、許さない!!」
そう言った瞬間、ジョーカーが少し笑った気がした。
その後、二人は話す事無く互いのカードを引いていった。
そして、あっという間にエミリアが1枚ジョーカーが2枚になった。
引くのはエミリアだった。
「私はバカラで運を身につけたわ。諦めたら?」
しかし、ジョーカーはその提案に乗らなかった。
そして、初めて喋った。
「君にはババじゃないカードは引けないよ」
その、聞き覚えのある声にエミリアはびくっと反応した。その反応にジョーカーは笑って、つけていた仮面を外した。

―――それはよく見知った顔だった。

「―――レンっ!?」
エミリアは思わずレンの顔を見る。だが、レンはそんなことを気にせずにカードを引くように促した。
「っ………」
エミリアはどうするべきだろうと考える。否、ここまできたのだから―――――――


「一体、どういうことなの?レン」
優勝したエミリアは賞品として“キューブ”を貰った。ちなみにそれはルービックキューブのような物だった。
「本当は俺一人でやろうかと思ったんだけど、もしかしたら決勝戦に残れないかもしれないからエミリアに頼もうと思ったんだ」
レンはなぜか地面に正座をしながら喋っていた。
「だけど、そのキューブの為にエミリアにババ抜き大会に出るように頼んでも嫌がるだろう?だから、あーゆー風に言えば参加してくれるかなって」
「………」
エミリアは無言で上からレンを見下ろす。
その無言に耐えられなくなったレンは笑った。
「てへっ☆」
ぶちっ、と何かが切れる音がした。慌ててエミリアを見てみれば銃をその手に装備していた。
―――そして……………
「てへっ☆、じゃねぇー!!私の頑張りを返せ、こんちくしょー!!」

跳弾(笑)

終わり

 

 

 

 

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