「――これより、終了式を始めます。なお、修了者は主任教授から発表されます」
上の方から、重くて低い声が聞こえてきた。ここはいつ来ても嫌な場所だった。
だが、今日は来なければならない理由があったので仕方がない。
「教授会による厳正な審査の結果、全会一致により今期の修了者をブルーに決定しました。ブルー、前へ……」
言われた通りに前へと出る。目の前には何もなく、ただ上から教授達が自分を見下ろしているのが分かる。
この、人を見下したような上の空気がいつまで経っても慣れなかった。
それでも顔には出さず、冷静に振る舞っていた。
しばらくすると、主任教授が喋りだした。
「君にはリージョン界への外遊を許可する。修了者の第一の務めはリージョン界を巡り、漫才の資質を身につけ鍛練することだ。その為にはあらゆる手段を用いてよい」
主任教授はそれだけ言うと何も言わなくなった。まるで、もう用は無いと言っているかのように。
実際、今まではここで終わりだった。だが、今日は違った。
ブルーがさっさとここを去ろうと思っていたときだった。司会進行役の教授が言ったのは閉会の言葉ではなく、考えもしない言葉だった。
「ではここで異例の事ですが、出発前に校長からのお言葉があります」
その言葉にこの場にいる全員が驚愕した。
普段、ここは圧迫されるような静かさしかない。それが、人々のざわめきで溢れている。
司会である教授が「静粛に」と言うと、しばらくしてだが静かになった。
ブルーは特に意味もなく上を見上げ、このホール上の天井に描かれている絵を見た。
「ブルー、貴方は選ばれし者です。しかし、双子のままでは漫才師として売れません。だから貴方は運命に従わなくてはなりません。……今日、別の場所で貴方の双子の片割れであるルージュも同じように終了の日を迎えています。ここは売れない漫才師よりも、売れる漫才師を求めています。……それは貴方だと信じていますよ。さぁ、行きなさい。資質を身につけ、そして―――」
一旦途切れる言葉。それはこの後の言葉を強調するためだ。
すぐに言葉が続く。

「―――ルージュより売れろ!」


キングダムを離れたブルーはゲートを使い、色々な資質が集まる場所であるドゥヴァンに来ていた。
たくさんの人混みを掻き分けてブルーは目的の場所に向かった。
そこはあまり目立っていない場所であったが、強くひかれるものがあった。
きっと、ここには自分に合った資質があるのだろう。
「……失礼する」
そう言って中へと入る。中は思った通り静かで落ち着いた。
「ほっほっ。久しぶりの客じゃな」
奥から出てきたのは、一人の老人だった。彼はじっとこちらを見て、にっこりと笑った。
「今年のキングダムの修了者じゃな。……ふむ、いい人材じゃ」
そうして、老人は一つのハリセンをブルーに差し出した。
ブルーが何かを尋ねる前に老人は答える。
「これはお主の武器じゃ。そして、突っ込みの道具でもある。……さぁ、それを持って旅に出るのじゃ。ゆくゆくは達人を越えるのじゃぞ」
そう言うと、老人はブルーに資質を身につけるための修業場所を教えてくれた。
ブルーは早速言われた場所にゲートを使って移動をした………。

その後、ブルーは着々と修業をこなしていき、その修業の途中でいろんな人と仲間になった。
最後の修業の為にブルーは最初にやってきたドゥヴァンに戻り、麒麟の空間へと向かったのだった………。

「ようこそ。私に何か用事でも?」
空間の奥には麒麟がいた。彼はブルー達を客人のようにもてなした。
ブルーはまだるっこしいことを省き、率直に本題に入った。
「資質の為の修業をしたい」
「ほぅ、資質の為の修業ですか……」
麒麟は笑うような仕草をし、ブルーに近づいた。
「資質を身に付けたければ私を倒しなさいっ!!」
そう言ってのけると、麒麟はブルーに向かって攻撃をしようとした。自然と仲間も武器を構える。
麒麟の攻撃がブルーに当たりそうになった瞬間―――

「なんでやねんっ!!」
ばしっ

ブルーは武器ではなく、ハリセンで思いっきり麒麟の後頭部を叩いた。
少しばかり、麒麟の表情は満足気だった。
「これで、突っ込みの資質は手に入れた」
倒れた麒麟を見もせずにブルーは入り口に戻る。
仲間の誰かがブルーに呆れながら質問をした。
「……こうまでして資質を手に入れたいの?」
だが、ブルーはそれに答えるというよりは自分を納得させるために呟いた。
「これでいいんだ。……これでルージュと対決ができる」

満月の夜に二人の対決が行われた。ちなみに二人の仲間はどっちがおもしろいかの審査をやることになった。
「では始めるとするか……」
ブルーのその一言によって二人の対決は始まった………。
「じゃあ、最初は僕からやるね」
軽く手を挙げ、ルージュは咳払いを一つした。
「ねぇ、ブルー。DSCって何だか知ってる?」
ルージュはいきなり何を言いだすかと思えば、そんな簡単なことを聞いてきた。
ブルーはとりあえず律儀に答える。
「そんなのは簡単だ。……体術の一人連携だろ?」
その答えににやりと笑うルージュ。指を振り、答えた。

「違うよ。DSCは化粧品のメーカーだよ」
「それはDHCだっ!!」

ブルーは思いっきり懐から取り出したハリセンでルージュを叩いた。
叩かれたルージュはすぐに顔を上げ、ブルーを見る。
「今ブルーが僕を叩いた瞬間、僕のぼけが生き生きした気がした」
「……まぁ、突っ込み易かったがな」
腕を組み、ブルーは何かを考えるようにする。一方、ルージュは何かを分かった様子だった。
「ブルー、僕達は―――いや、ぼけと突っ込みは二つで一つだったんだ」
がしっ、とブルーの袖を引っ張るルージュ。それにブルーは納得したように頷いた。
「そうか………でも、なぜキングダムは教えてくれなかったんだ?」
「……帰ろう、ブルー」
ルージュがすっと手を差し出す。ブルーはその手を取り、力強く握り返す。
「キングダムへ―――」

ブルーとルージュは仲間を連れてキングダムへ帰った。
しかし、そこは二人の知っている故郷ではなかった。
辺りを見渡せば、腹を押さえて笑いこけている人達がたくさんいた。
「一体、何があったんだ!?」
ブルーは笑いこけている内の一人に話しかけた。
男は腹を押さえながらその問いに答えた。
「ライバルの漫才師達がたくさんコンテストに出場してきたのだ。くくく……あっははは」
「ライバルって誰だ?おい……」
ブルーの呼び掛けも虚しく、男は再び笑いだした。それ以上は何も聞けないと判断し、別の所へ移動する。
すると、〈コンテスト会場はこちら〉という看板を見つけた。
「ブルー、これってコンテストでライバルの漫才師達に勝てばいいんじゃない?」
「そうだな。………ちょうど、あそこに無事そうな奴がいるな」
すたすたとブルーは男の傍まで行き、話しかけた。
「ここからコンテスト会場へ行けるのか?」
そう聞くと、男は目を輝かせて逆に問うた。
「漫才のライバル達に対抗してくれるのか!?君達はもしや、キングダム最後の漫才師か?」
「………あぁ、そうだ」
男はブルーとルージュを交互に見つめ、思わず笑みをこぼしていた。
「では、ブルーとルージュか………それならば期待も持てる。一旦会場へ行くと、優勝しない限り戻ることは出来ない」
そう言って、真剣な眼差しで二人を見る。まるで、二人がどれくらい真剣なのかを見るように。
「それでも行くのか?」
「あぁ……」
ブルーは迷う事無く頷く。ルージュもにっこりと笑って、頷いた。
その様子に男は何かを、二人の向こう側に何かを見た気がした。

「お前達は本当の……」
男は誰もいなくなった空間で、ブルーとルージュが去って行った方向を見つめながらそんなことを呟いていた。

こうして、コンテストに出場した二人は順調に勝ち進み、ついに決勝まで辿り着いた。
相手は漫才の君だった。その圧倒的な相手と二人の勝負は果たして―――

THE END

 

 

 

 

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