空はもう、闇色一色に染まっていた。
その闇の中心に凛と光を照らしている月があった。
そして、ルージュは月に手が届きそうだと錯覚させる場所に立っていた。
ルージュがぼんやりと月を眺めていると、近いようで遠い場所から砂利を踏む音が聞こえた。
ルージュは顔を月に向けたまま喋る。
「遅かったね、ブルー」
「ふん。貴様が早すぎるのだろう」
つけ放すかのように言われた。
そんな冷たい態度にルージュは思わず苦笑してしまう。
「……何がそんなにおかしい?」
そう言われて。
初めてルージュはブルーを見た。
「僕達は顔が同じなのに性格や、きっと考えていることは違うんだろうな。って、考えるとおかしくない?」
同じ顔。しかし、今浮かべている表情は二人共違かった。
ルージュは笑い、ブルーは何の感情も顔に表さなかった。
双子だから、似ている。
双子だから、違う。
そして、双子故に戦う宿命にあるのだ。
「……俺は貴様に勝つ。帰らなければならない場所ができたからな」
ブルーの口からそんな言葉が聞けるとは思わなかったルージュは目を見張った。
そして、小さく呟く。
「……僕にもそんな場所があるのかな………?」
しかし、そう呟いてみてから小さく首を振った。
弱気な気持ちを振り捨てるかのように。
「……戦い方は分かってるいるな?」
ブルーにそう聞かれ、ルージュは頷いた。
「自分達が今まで集めてきた資質を使って戦うんでしょ?」
「そうだ。……そして、生き残った者が勝ちだっ!!」
ブルーはそう言うが早いか、物凄いスピードで呪文を唱え始めた。
ルージュは今から呪文を唱えても遅いと判断すると、呪文がいらない簡単な術を発動させる。
お互い強い術を使ったり、大きなダメージは与えられないけれど、呪文を必要としない弱い術も使ったりした。
どれくらいの時間が経ったのかは分からなかったが、相手の様子を見ればあとどのくらいで決着がつくかは目に見えた。
お互いにボロボロで、魔力もほとんど残ってなんかいなかった。
だから、次の攻撃で全てが終わることをお互い感じていた。
息を整え、残りの魔力を最後の一撃に全てを込める。
そして、互いに向かってそれをぶつけ合った――――

…。
……。
………。
しばらくの間、視界が真っ暗になった。
そして、ゆっくり目を開けてみると、一番最初に目に入ったのは月だった。
暗い闇の真ん中に、ただ一つ場違いな月。
そんな月が眩しくて、ただ見ていることしかできなかった。
「……ようやく目覚めたか」
冷たくて、けれど呆れたような、疲れているような声が自分とは逆の方向から聞こえてきた。
ルージュは仰向けになって横になっていた体を起こし、反対側の方を見た。
「ブルー………」
そこにいたのは間違いなくブルーだった。
「っ………止めを刺す時間があったのに、なぜ君はそれをしなかったんだ!?」
痛む体を押さえ付けながら、ルージュはブルーに向かって怒った感情をそのままにそう言った。
しかし、一方のブルーはやけに落ち着いていた。
「ふんっ。貴様に言われなくてもそうしていたさ。……魔力が尽きていなかったらな」
自嘲気味に言うブルーの言葉に嘘はないようだった。
ルージュは何も言えなくなり、そのまま黙る。
そんなルージュにブルーは問うた。
「……一つ聞くが、貴様はそんなに死にたかったのか?」
「僕は……別に………」
“違う”とは言えない。
ほんの少しだけ、自分はもしかしたら死にたかったのかもしれない。
自分のことなのに、自分が分からなかった。
「まぁいい。……貴様が死にたかろうがどうしようが俺には関係ない」
「しかし………」とブルーは続ける。
「俺は一度キングダムへ帰ろうと思う。……貴様はどうする?」
そう問われ、ルージュは一瞬迷った。
だが、迷いを振り払うとブルーに向かって頷いてみせた。
「………行くよ。僕もマジックキングダムに帰る」
きっと、もう後には戻れないだろう。
それでも。
自分にはどちらにせよ、戻れる場所などありはしないのだから―――――


終わり


→あとがき
久しぶりに書きました。
双子対決は一番好きで、一番悲しいところなので、なるべくそれを表現したかったですね。
このお話では二人とも生き残っています。それはきっと、俺が二人に幸せになってもらいたかったからかもしれませんね。

 

 

 

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