「…みんな……ごめん………」
涙を流しながらそう言い残して消えていったニア。
「ニアァァァァっ!!」
ハントの悲痛な叫び。
「………」
何かを考えているヴァイスの横顔。
アウルを斬ろうとして雲の下へと落ちてしまったロナード。
――――そして、そんな光景をただ見ていることしかできなかった自分。
エアベルンの上にいる三人の間に重い沈黙が流れた時、ベルンハイムが甲板に現れた。
「おい、何かあったのか?」
説明する気になれなかった俺は何も答えなかった。
しばらくした後、ヴァイスがベルンハイムに全てを話した。
その話を聞いていくうちに、ベルンハイムの顔つきが真剣なものへと変わっていった。
そして、話が終わるとベルンハイムは俺を見た。
「……で、レイナス。ニアをすぐに助けに行くのか?」
突然話を振られ、俺は少し驚いた。
しかし、頭がすぐに冷静になる。
「いや、まずは陛下に報告をしよう。……ニアやロナードを捜すのはその後でもいい」
「レイナスっ!!」
ハントは俺の言葉を聞くや否や、俺の胸ぐらを掴んだ。
俺は抵抗しなかった。
ハントの目が悲痛なまでに歪み、それでも懸命に俺を睨みつけていたから。
自分自身、最低だと思ったから。
だから、抵抗なんてできるわけがなかった。
「ハントさん、落ち着いてください。……つらいのはレイナスさんも同じなんですよ?」
そっとハントの手を外すヴァイス。
ハントは俺達二人から顔を背けた。
そして、言う。
「俺は一人でもニアちゃんを捜し出す。……ベルンハイム、俺だけ近くの町で降ろしてくれ」
それだけ言ってしまうと、ハントはそのまま中へ入っていってしまった。
俺はヴァイスの顔を見ずに尋ねた。
「……俺の選択は間違ってなかったのかな?」
「私は間違ってないと思いますよ」
そう言って、ヴァイスは俺を見た。
「……それに、ハントさんも分かってると思いますよ?」
「えっ?」
「あなたが、今すぐにでも二人を捜しに行きたいということを」
ヴァイスはそう言うと、甲板を後にした。
「風が冷たくなってきたから、お前も早く中へ入れよ」
ベルンハイムもヴァイスの後に続いて甲板を後にする。
俺はまだ中に入る気になれなかったので、そのまま甲板にいることにした。
ベルンハイムの言う通り、風が急に冷たくなってきたがそんなことは気にならなかった。
ロナードは雲の下へと落ちた。だが、エルディアの存在を知っているレイナスはロナードがまだ生きてエルディアにいることを確信している。
けど、ニアは違う。
はっきりと無事だと確信が持てない。
あのアウルとかいう奴に何の目的で連れて行かれたのか分からない。
だから、余計に心配だった。
「ニア………」
まるで、神にでも祈るかのように俺はそう呟いた………。

「どうして、バーデルゼン復興の指揮なんかとられるんですか?」
カイゼルシュルトに戻り、全てのことを陛下に報告し終わった後、一緒にカイゼルシュルトに来たヴァイスにそう言われた。
俺は迷う事無くすぐに答える。
「ニアが見つかるまでじっとしていられないからな。……バーデルゼンを復興させることをニアも望んでいると思うし」
「ですが、ハントさんみたいにあてがなくても情報を集めてまわればいいじゃないですか」
ヴァイスはそう言った後、ほんの少し声を小さくした。
「それに、こんなことを言うのは失礼かもしれませんが、バーデルゼン復興の指揮は誰にでもできます。……しかし、ニアさんを救えるのはあなたしか――――――」
「バーデルゼン復興の指揮も俺にしかできないよ」
「えっ………?」
突然のことに驚いたのか、ヴァイスはきょとんと俺の顔を見た。
俺はそれに微笑んだ。
「どっちも俺にしかできない。なら、俺は今できる方を選ぶ。………ニアのことはすごく、心配だけれど。でも、ハントも捜してるし、ロナードもエルディアで生きてニアの情報を集めてると思う。……だから、きっと大丈夫」
ヴァイスまだ少し不満があるようだが、とりあえずは何も言わなかった。
その後、一旦俺とヴァイスは別れた。
俺は久々にカイゼルシュルトの軍服に着替えなきゃいけなかったので先にエアベルンに戻ったのだ。
ヴァイスはカイゼルシュルトを少しふらついてからエアベルンへと戻ってきた。
「久しぶりに見ますね。レイナスさんの軍服姿」
エアベルンに帰ってきたヴァイスは俺の姿を見るなりそう言った。
今ではすっかりセントミラ王から頂いた服が馴染んでしまったため、軍服を久しぶりに来てみると変な感じがした。
「変……かな?」
「いえ、そんなことはないですけど。………でも、やはり軍服姿はロナードさんの方が似合っていますね」
まぁ、確かに自分でもそう思う。
ロナードやライなんかはよく軍服が似合う。……性格の問題なのだろうか。
そんな他愛ない会話をしていると、すぐに時間は過ぎていった。
「レイナス、バーデルゼンにそろそろ到着だぜ」
ベルンハイムは俺とヴァイスの話に割って入ると、そう俺に告げた。
俺は自分の荷物を確認すると、ヴァイスにあることを頼んだ。
「ヴァイス、俺の代わりにニアを捜してほしい」
「……レイナスさん………?」
「なるべく早く仕事を終わらせるから、それまで頼まれてくれないか?」
ヴァイスはしばらくの間考えるような仕草をする。
やがて、諦めたようにヴァイスは首を振った。
「……しょうがないですね。レイナスさんの頼みじゃ断れませんしね」
そう言って笑う。
「ニアさんのことは私に任せて、レイナスさんは仕事の方を早く終わらせてくださいね」
「ありがとう、ヴァイス」
そう言うと同時に、エアベルンがどうやらバーデルゼンに到着したらしかった。
俺はヴァイスに後を任せてバーデルゼンの地に降り立った。
全ての物語が始まり、ニアと初めて出会った場所へと――――――


終わり


→あとがき
レイニア風味ですけど、一番書きたかったのは最後です。
なぜかというと、ヴァイスが単独でニアの情報を集めている理由はレイナスに頼まれたから、という勝手な妄想を抱いているからです。
だから、その部分を書きたかったのですよ。
まぁ、ロナードがエルディアでザード達といる間にクラウディアはそうなってたんだよ、ということも書けて嬉しかったですけどね。

 

 

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