似た者同士の思うこと


今日は年に一度のクリスマス。
先を急ぐ身だということは十分過ぎるくらいわかっているけど。
でもやっぱり、今日という日を楽しみたい。
ほぼ満場一致で、一日だけ自由行動を楽しむということになった。
「クリスマスパーティは夕方からだから、それを忘れないようにな」
レイナスのその一言を合図に、皆が街の中に思い思いに散っていく。
散策に出る者、のんびりとショッピングを楽しむ者。
過ごし方においても個性的な性格が出るメンバー達。
そんな中、ロナードは成り行きでザードとラナのお目付け役に。
彼らとは年齢的にもそんなに離れているわけではないのだが、彼らにとって珍しいものばかりあるこのクラウディアでは、まさに遊園地に遊びに来た小さな子供の状態で。
見るもの全てに気を取られ、連れ回され。
こうも違うものなのか、と半ば気だるそうにロナードは息を吐いた。





それから数時間後。
すっかり疲れ果ててしまったロナードとは正反対に、まだまだ余裕のザードとラナ。
仕方なく公園で休ませている間に、また次の場所へと散策に戻っていった。
そんな訳で、今は一人。
風に吹かれながら、のんびりとベンチに座っていた。
時折吹く冷たい風が、今の自分には心地良い。
元より冬の凛とした空気は好きだから、こうしているのも苦にならなかった。
不意に、ポケットに手を入れた。
その手に触れるのは、小さな石の付いたペンダント。
エルディアにいる時に買ったのだが、その謂れを聞いた瞬間、思わず手にとって買ってしまっていたのだ。
その地域・・・というよりも、エルディアでは、街の外に出る人に渡すお守りだそうだ。
街の外にはたくさんの魔獣がいる。
それ故に、生きて帰れる保証はない。
それほどまでに危険な地。
だから、そのお守りを渡すらしい。
その人の旅の無事を祈って。
だが、今ではトーポもあるため、そんな危険なことはなくなったが、その風習は今でも残っているようで。
街の雑貨屋にはどこに行っても置いてあった物だ。
そうして思い浮かべたのが、ライの顔。
昔のエルディアの人たちと同じ境遇な気がしたから。
彼女の身を案じる気持ちは変わらないから。
だからその店主の言葉が心に引っ掛かり、つい買ってしまっていたのだ。
いつか彼女に渡そうと、そう思って。
そうして過ぎること数ヶ月。
だが何だかんだで渡す機会に巡り会えず、そのペンダントは今も自分手元に残ったまま。
鎖が指に絡まったままそれを引き上げると、石が寂しげに輝いている気がした。
そうして漏れるため息。
せっかく買ったのに、このまま渡せず仕舞いになってしまうのだろうか。
そう考えると憂鬱な気持ちになってしまう。
もう一度ため息をつこうとした、その時だった。
「あら、ロナードじゃない」
後ろからライの声が聞こえてきた。
その瞬間、手のものを再びポケットへ仕舞う。
ライはそのままロナードの隣に座り、短く息を吐いた。
そしてその顔は別れた時よりも心なしか赤い。
もしかしたら・・・。
「体でも動かしていたのか?」
「まぁね。 最近では、誰かさんに差を付けられてしまったから」
最後の言葉に棘を感じるのは何故だろう。
最近、どうもライバル視されているような気がしてならないのだ。
とはいえ、別に自分にそんなつもりがあるわけではない。
もちろん、その実力は認めている。
もっとも、それを口にしたことは無いが。
だがそれは、ライもわかっているのだろう。
これ以上は深く言及してくることはなかった。
その代わりに、「そういえば」と思い出したように話を振った。
「ロナードはこんなところで何をしているの? てっきり体でも動かしに行ってるものだとばかり思ってたけど」
「俺も最初はそう思っていた。 だが、ザードとラナに捕まった」
その時のことを思い出したのだろう。
明らかにうんざりとした空気がそこにはあった。
こうして自由時間がある時に、ゆっくりと鍛錬を積みたかったのだが・・・。
だが彼らに付き合っていてはそんな時間が取れるはずも無い。
一日置いただけで腕は鈍ってしまうというのに。
時間が過ぎ行くたびに感じる焦り。
とはいえ、本当に楽しそうにしている彼らの頼みを断れるはずも無く。
しかもクラウディアには慣れていない二人だ。
そんな彼らを二人だけにするのはいささか不安もある。
ロナードの中に渦巻く、そんな葛藤。
「・・・それは災難だったわね」
ライの方は彼らに連れ回されるロナードを想像し、少しだけ同情の念を寄せる。
だがそんな姿も可笑しくて、つい笑ってしまった。
「・・・そんなに可笑しいか?」
「えぇ、可笑しいわ。 でも、悪くは無いわね」
笑い止まないライに、僅かに不機嫌そうな顔をするロナード。
彼女がそのお詫びに、と取り出したのは、見たことも無い石のペンダントだった。
「これは・・・?」
「気を悪くしてしまったお詫びと、クリスマスプレゼント。 この街では、旅立つ人にそのペンダントを渡す風習があるらしいわ」
だから、貴方にあげる、と。
珍しく、柔らかく笑うライ。
そんな彼女を見るのは、本当に久し振りで。
思わず見入ってしまう。
「じゃぁ、私はこれで」
そう言って去ろうとする彼女の腕を、思わず掴んでしまっていた。
彼女が不思議そうに振り返る。
するとロナードはポケットから先程のペンダントを出し、その手の上に置いた。
「ロナードこそ、これは何?」
「俺のも似たようなものだ。もっとも、こちらはエルディアのものだがな」
少し驚いたようにロナードとペンダントを見比べていたが、また、可笑しそうに笑った。
「私達、似た者同士ね」
「あぁ、そうだな。考えることも同じようだ」
「本当、可笑しいくらいにね」
ロナードも小さく笑う。
ひとしきり笑った後、互いにそのペンダントを首にかける。
そして一瞬早く、ロナードが踵を返した。
それに気付いたライが声を掛ける。
「ロナード、体を動かしに行くの?」
「あぁ、まぁな。 このままでは誰かさんに先を越されそうだからな」
「・・・よく言うわ」
呆れたように息を吐く。
ライも歩を進めると、その隣に並んだ。
「さっき、体を動かすのに良い場所を見つけたの。 あんないしてあげるわ」
「それは有難いな」
「だから、組み手、付き合ってよね」
その成果を見せてあげる、と意気込むライ。
そんな彼女をやはり断れない。
仕方ない、とため息をつく。
この旅で意外な一面を見出した気がするロナードだった。





二人の緊張した息遣いが漏れる森の中。
激しくも真剣な組み手の最中に、キラリ、と彼女のペンダントの石が光る。
木漏れ日を受けたその石は、今までに見たことも無いほどに綺麗に光り輝いていて。
ようやくあるべき人の手に渡り、その石も喜んでいるのだろう。
そんな風に、柄でもないことを考えてみる。
ライの方もロナードが完全に集中し切れていないことを体で感じ、内心では怒りを感じていた。
こちらはこんなに真剣なのに。
こんな風に手を抜かれるのが一番嫌いなのに。
それを彼も知ってるはずなのに。
でも・・・。
彼の胸元で光る石を見たら、そんな怒りも和らいでしまう。
それほどまでに見入ってしまうものだから。
そして二人はこっそりと笑みを浮かべたのだった。

 

 

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    ロナライに感動して貰ってきちゃいました。素敵ですw

 

                                                                                                                                                                                      

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