世界はいつだって、平等で無慈悲だ。
誰が傷つこうが、苦しもうが、その絶対は揺るがない。
世界は廻る。
同じ速度で、何度も何度も。


そう。世界は廻り続けるのだ。
例え、誰かが傷つき、死んでいったとしても――――

 

 

「………」
本に落としていた視線をふと上げると、窓を通した向こう側―――つまり、外から差し込んでくる太陽の光に目が眩んだ。
読んでいたページにそっとしおりを挟むと、本を閉じて机の上に置いた。
そして、カーテンを閉めようと椅子から立ち上がり、窓の傍へと近づく。
だが、カーテンを握り締めたまま止まり、窓から差し込む光に目を細めながら窓の外を見た。
(……眩しい)
そう、心から思った。
それは太陽の光が燦々と地上を照らしているからだとか、別にそういうわけではない。
いつも暗い所にいた自分にとっては外の何気ない光景でも眩しく見えた。
ただ、それだけのこと。
―――それだけの、はずなのに………。
「っ………」
茫然と外を見ていると、急に眩暈がした。
カーテンを握り締めたまま、壁に体をくっつけてずるずると床に座り込んだ。
「うっ………」
座ったことで眩暈は治まってきたが、しかし吐き気の方がまだ治まらなかった。
これは今に始まったことではない。
自分を引き取った叔父に虐待されてから、或いはそのもっと前の両親が事故死した―――正確には、叔父が事故死するように仕掛けた―――頃から、時々こうやって眩暈や嘔吐、発熱等が起こるのだ。
「………」
なんとかして気分を落ち着けると、大分吐き気も治まりかけてきた。
カーテンを支えにしながらゆっくりと立ち上がると、もう一度きちんと気持ちを落ち着かせるために本を読もうとした。
だが、それよりも早く扉を軽くノックする音が聞こえる。
そして、それと同時に落ち着いた感じの少女の声が聞こえてきた。
「……望、ちょっといいかしら?」
「……うん」
望は聞こえるか聞こえないかどうかの声で答えた。
だが、ちゃんと聞こえていたようで、少女―――望の双子の姉である希は丁寧に扉を開け、部屋の中へと入ってきた。
「アップルパイを焼いたから一緒に食べな………」
希は笑顔でそう言いかけたが、途中で望の顔色が悪いことに気がつく。
そして、すぐに心配そうな表情を浮かべる。
「望……どうか、した?」
心配そうにこちらを見る希を心配させないように、望は首をゆっくりと横に振った。
「……どうもしないよ。大丈夫」
そう言って、望は椅子に腰掛けると本を読もうと机の上に置いた本を取ろうとした。
―――しかし、望よりも早く希が本を取り上げた。
「あ………」
「ダメよ。体調が悪いことくらい、隠そうとしたって私には分かるんだから………」
希は優しくそう言うと、笑った。
「……だから、ちゃんと休まないとダメ」
そう言う希を望は何の感情を込めずに見る。
だが、逆らっても無理だと思ったのか、それともそれとは別のことを思ったのかはその表情から伺えなかったが、望は何も言わずに布団の中に入った。
「ふふ。焼いたアップルパイはちゃんと取っておくわね」
希は望がきちんと布団の中に入ったのを確認すると、それだけ言い残して部屋から出て行ったのだった………。

 

「………」
ぱたん、と扉が閉まると同時に、顔に貼りつかせていた笑みを消し去る。
そして、そのまま何の感情も表さずに、希は望の部屋の傍から離れた………。

 

世界は廻る。
誰が何を思おうとも。
ただ、同じ速度で廻り続けるのみ。


平等。それ故に、無慈悲な世界なのだから――――――

 

fin.

 

 

 

 

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